ボランティア

8、新社員制度導入の狙いと徹底した差別政策による搾取強化

資格制度
 この辺りで、鉄鋼職場での社員制度について、若干掘り下げて展開しておく必要がありあります。何故ならば、資本の側にとっては利潤を追求する最も初歩的で簡単なな経営方法は、賃金の抑制乃至は賃下げと人減らしを行い、人件費を減らすことが大きな柱です。更に、科学性を装って如何に労働者をだまして搾取する、その為には組合を弱体化し職場支配を強化する事が必要不可欠であるからです。

又、労働者にとっては、憲法で保障された生存権、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とする、労働力の対価として、正当な賃金水準を確保しなければなりません。日常生活を維持していく糧としてのみならず、子供の養・教育費や文化的な生活を維持し、自らの休息と向上を図り明日への鋭気を養い、労働力の再生産に必要な賃金水準に影響する、重要な問題であるからです。


   新社員制度導入の地ならし

 鉄鋼独占資本の職場支配は、日本古来の年功序列型から1966年(昭和41年)に、新社員制度の導入を図りました。しかし、直接移行するには矛盾が生じ無理なので、その前に古い殻から脱皮しておく前段の準備が必要でした。前近代的な徒弟制度の残滓で、工場で働く一般の現場労働者を「工員」と言い、学卒の事務職は「職員」と称して待遇が全く違っており、賃金面のみならず、職員と工員では入退出する通用門や食堂まで差別されていたということです。それを1964年(昭和39年)に、工員をA社員、職員をB社員とし、呼称の変更を行い、社員制度の地ならしを行っていたのです。

 新社員制度の導入は、労働者からの搾取を強め、より多くの利潤を上げるのが狙いですが、その為には労働者への支配を如何に強めるか、より巧妙な職場支配体勢を構築するかに重点がおかれているのです。その基本はアメリカ式労務管理から学び、新しい制度へと移行していったのです。従って、1966年に導入されたアメリカ式労務管理に「新」をつけ、新社員制度とする、二段構で手の込んで策謀をこらす必要があったのです。

軍隊式の階級制度からアメリカ式労務管理への移行と特徴
  社員・監督職制度の移行
(旧来の現場役付き制度)    (新社員制度)
   職長                作業長
   組長                  作業長
   伍長(班長)              工 長
   棒心                 A・B 工
    一般                 一般
 上記表は、従来型から新社員制度へ移行時の生産現場の役付き制度です。特徴的なのは、作業長制度の導入です。旧来の制度は、伍長など如何にも軍隊の階級制度を真似て取り入れたかが伺えます。又、棒心など役付きの下にあって一般職をまとめる心棒の役割で、おとなしく失策をしなければ次期伍長への昇格が約束され、如何にも年功序列型の制度が伺えます。また、職長と言うのは、職場の下から仕事一筋に20〜30年かけ、自分の経験で感と技術を身に付けて叩き上げてきた職人、仕事の上では”神様”扱いで、部下の面倒見がよく、信頼の厚い人格者も一部存在していました。
 新社員制度に於ける作業長制度の最大の特徴は、作業長職は仕事面でなく労務管理が主であり、私生活を含めて部下を把握し、社内だけでなく24時間社員を管理する役割が課されます。日常生活まで掌握するには人数に限界があり、20人程度の割合で配置され、部下を看視する役割を担わされていました。


賃金制度・・・年功序列型賃金から職務・職階(資格)賃金への移行

従来の賃金政策は、年功序列型賃金制度を採用してきたのが、日本の企業の一般的な賃金体系でした。単に経験年数が多いだけの理由ではなく、家庭を持ち家を建て子供が生まれれば、養育費や教育費に出費がかさみ、年功序列賃金には生活給的な要素が含まれており、生活が立ち行かない社会状況から発しています。その内容は主に、本給、業務給、能率給の三つから成っていましたが、子供の人数による育児(子供)手当や住宅手当も支給され、文字通り生活維持型の賃金体系で、それでなければ生活出来ない日本の低賃金政策であったとも言えます。

 しかし、鉄鋼独占資本が高度経済成長政策に基づいて生産性を高め、所得倍増政策によって一定の賃金水準が確保されるに至り、資本の側は日経連を軸に長期計画を立て、賃金抑制にのり出しました。合理化を推し進めるなかで、近代的な設備によって生産性をあげるのに適した賃金体系とし、生産コストに占める賃金コストの比率を低く押さえ込む事をねらい、職務・職階賃金制度の導入を画策したのです。経営側は、「技術革新と近代化が進んだ今日では、年功序列型の生活給は不合理である」、同じ仕事をしていれば誰でも同じ賃金がもらえる「同一労働同一賃金の原則にたった職能別賃金に」と、特に若い層を狙った宣伝をつよめてきました。


新社員制度導入の真のねらい

 職務給導入のねらいとするところは、一つには「合理化」の新しい段階のもとで、新しい型の差別賃金体系を再編強化することにあります。二つ目のねらいは、職階級差別賃金を前提とする職務給によって、元々少ないパイを労働者を競争させこのパイを取り合い、団結を妨げ仲間同士の分断を意図し、労務管理の巧妙な手法とし、職場を専制支配すところに真の狙いが隠されているのです。そして、オートメ化によりもっと高い能力で働けば賃金が上がるとし、能力主義賃金政策で更に生産性をあげ、労働者を絞り取ろうとする新しい武器にしようとしたわけです。更には、社員・賃金制度を改訂し、資格制度を取り入れ、どんなに優秀であろうが会社の方針に従順に従わなければ悪い成績査定をつける。評価が悪ければ資格は上がらず、賃金も頭打ちで上がらない仕組みへと、更に改悪を推し進めていくのです。


新社員制度のもたらした結果

 日経連がこうしたアメリカ式労務政策から学んだ新社員制度を企業が導入することにより、労働者同士を競争させ分断して、インホーマル組織を育成し強化していきます。労働組合を、会社防衛隊と称するインホーマルが独占し、労使一体の労働組合が作りあげられていきます。好況の時には、不況の時のために準備をして蓄えておくとして、賃上げを抑えて低賃金のまま措え置き、内部留保として貯めこんでおきます。そして、オイルショックや円高不景気がおとずれると、何次にも亘る人減らし「合理化」が強行されます。インホーマルに加盟し会社施策に協力してきた労働者は安全圏と思いきや、そうした人達にも「会社が苦しい時こそ協力しろ」と、容赦のないリストラの嵐が吹き荒れ、立場上職場を去らざるをえない状況に追い込まれます。

そして会社や労使一体で会社の尖兵となった労働組合の横暴に反対し、職場要求を取り上げ、真に労働者の立場で闘い活動する真面目で民主的な労働運動を進める活動家に対しては、差別賃金制度を悪用して徹底した賃金差別をおこなって来ました。本人のみならず、他労働者への見せしめ分断政策として、結婚しても社宅入居は拒否し、福利・厚生は勿論社内教育等、ありとあらゆる面で不当差別を行います。憲法違反の人権侵害や労働基準法を無視した不当労働行為も平然と行われました。正に現在で言うところのパワーハラスメント・いじめ以上の行為が大人の世界、企業という会社の高い塀で隔離された閉鎖社会の中で組織的に公然と行なわれていました。会社管理職いわく、「門を一歩入ったら、会社の塀の中では日本国憲法は通用しない」と、治外法権をうそぶく始末でした。


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